4 佐賀空港地区の現状と将来展開構想

 

1.有明佐賀空港の現状と将来展望

 有明佐賀空港が開港した平成10年は、日本経済のバブル崩壊・アジア通貨危機・日本版金融ビッグバン・等による金融不況等を背景とした日本経済の停滞期であった。経済情勢を鑑みると、もっとも困難な時期の開港であったのである。また、航空路線自由化の流れの中で、格安チケット販売による利益を目的とした航空会社の新規参入に伴って、近隣空港間の運賃切り下げ競争の煽りもあって、有明佐賀空港は必ずしも順調な門出ということはできない状態であった。しかし、このような経済環境と周辺空港との競争の中で、東京、大阪、名古屋への定期便の他、海外旅行チャーター便など年間約36万人程度の利用水準として推移している※7
 今後、日本経済の回復のためにも、そして同時に、九州経済とアジア経済との交流を深めて行く過程において、社会資本としての国際空港の果たすべき役割は重要である。しかし、今日の日本経済が抱える政府の累積赤字問題や財政の硬直化のもとでは、このような社会資本を充実させるためには、国民の負担はより少なくして、効率的な建設計画でなければならないことは周知のことである。
 つまり、社会・経済環境についての認識のもとでは、より少ない財政負担で、より安全で効率的な国際競争力のある国際空港の建設が求められていることは当然の理である。
 この意味で将来計画において整合的な周辺地域開発計画を持った「大筑紫経済圏」の中心に位置する有明佐賀空港が国際空港として果たすべき役割が大きく期待されると考えることができるのではないだろうか※8


※7 かつて開港記念番組において有明佐賀空港は「小さく産んで大きく育てようと」提案された。このときの大きく育てるための戦略がここで議論する「大筑紫経済圏構想」である。

※8 九州国際空港玄海灘建設説は建設費用が膨大であり、将来、政府の累世債務を増大し国民の負担を大きくするだけである。また、国際競争力ない国際空港を建設することは九州経済の将来にとってなんら価値のない選択である。

 


 このような問題意識と認識のもとで、有明佐賀空港は空港としての安全性を高めていくことはもとより、空港の利便性と快適性を高めて行くことが重要なのである。また、空港の拡張・増設に伴った周辺地域の発展計画とそのタイムスケジュールを明白にし、空港の拡張・増設と地域経済の発展が相互に「ポジティブ・フィード・バック」するシナリオを描くことが必要なのである※9
 この複雑系の用語で言う「ポジティブ・フィード・バック」のシナリオとは、社会・経済・政治・文化・生活の必然的な発展の核として「大筑紫経済圏構想」のもとで有明佐賀空港を国際空港として機能するように総合的な経済政策を展開していく経済政策論である。
 このような経済政策を複雑系のシナリオとして実行していくことによって、この筑後川流域圏と有明海沿岸域が「大筑紫経済圏」としての更なる発展が見こまれるのである※10


※9 今日の長期的な経済政策とは、「他の条件にして等しき限り」という前提のもとでの、古典派経済学で定義される静学的な手法分析による経済効率性基準の下での効用と利潤の最大化による目標の設定であってはならない。政策が実行される過程において変化する世界情勢の変化を始め、社会・経済・環境・政治の変化、そして市民意識等の諸々の変化をも考慮に入れた、諸要素間のフイード・バックを考慮に入れた、そして同時にそのフィード・バックを考慮に入れた政策論を持つことが重要なのである。このような政策論とその方法論に関しては後の節で説明する。

※10 有明海沿岸域とは地図で見ることができる範囲であるが、筑後川流域とは東は大分県の西部域と熊本県の北西部域を含み、南は菊池川流域、西は城原川・江川域だけではなく佐賀市西側の嘉瀬川・六角川・塩田川の流域までも含む広大な地域である。

 

 前のページ

 トップページ

次のページ