4.空港周辺域の機能集積


(1) 機能集積の方向性と波及効果
 新東京国際空港(成田空港)や関西国際空港の建設とその経済波及効果についての経験を考えると、日本経済における新空港建設の経済効果は、それほど大きいものではなかったということができる。それは新空港建設が既存空港の機能補完が主な目的であり、空港周辺地域の開発や発展が副次的な目的でしかなかったからであると考えられる※14
 しかし、この有明佐賀空港の拡張と空港周辺地域の開発に関しては、日本経済の将来についてのあり方を考え、地球環境問題を解決し、新しい国際競争力のある地域を建設するための構想としての大筑紫経済圏であることの認識が重要である。また、この大筑紫経済圏が九州地域のこれからの経済発展の核となって行くという大きな目標のもとに、有明佐賀空港を大筑紫経済圏の社会資本の中核として、またシンボルとして機能させていかなければならないのである。
 このように有明佐賀空港が周辺域とともに発展して行くためには、以下に示す、a.空港周辺地域への研究開発機能の集積、b.筑後川と有明海の特質を活かした地域研究のための施設、c.臨空型の産業誘致政策、d.経済波及効果、などの各種の機能が有明佐賀空港周辺域に集積していくことが図られなければならない。

※14 このような諸要因が空港建設は無駄な公共事業の代表といわれる原因でもあると考えられる。

 

a.空港周辺地域への研究開発機能の集積
 (1) 電子機器、情報、ソフトウェア、ICなどの研究施設・大学の誘致
 (2) 最先端技術・海洋技術(メガフロート建設等)のための研究実験施設
 (3) ごみ・産業廃棄物のエネルギー化・リサイクル化のための施設の建設

 


b.筑後川と有明海の特質を活かした地域研究のための施設
 (1) 干潟の研究所・低平地防災研究センター
 (2) 環境問題を克服し健康で長寿の地域づくりとその実践を目的とした施設
 (3) 地域の持つ伝統芸能・生活・文化・社会・歴史の研究施設・大学等の誘致


c.臨空型の産業誘致政策
 (1) 航空機の整備工場・整備士等の養成学校
 (2) 電子機器、情報、ソフトウェア、ICなどの臨空型産業
 (3) 輸入品、高付加価値製品や生鮮食料品などの物流施設
 (4) 商業機能を付加したマートなどの流通拠点機能の開発


d.経済波及効果
 (1) 交通センターとしての機能充実
 (2) 新幹線基地・各種鉄道の整備工場・基地化
 (3) 地域の持つ技術や文化を背景とした交流機能の高度化
 (4) 観光振興効果;広域観光の開発(九州観光のゲート・イン&ゲート・アウト機能)
 (5) 郊外型大型マーケット・モール群
 (6) 海洋レジャー産業の時代に対応したプレジャーボート基地建設


(2) 空港周辺地域における機能配置
 有明佐賀空港は福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県の4県の中心に位置し、その立地条件には優れたものがある。有明佐賀空港とその周辺域が各県・各地域との間に先に説明したような種々の交通アクセスによって結ばれることによって、次のような相互依存的発展過程を描くことができるのである。

将来の佐賀空港(4000m滑走路2本)


 a.鳥栖市、三養基郡地域
鳥栖流通業務団地の実績のもとに鳥栖北部丘陵新都市の開発が進み、久留米鳥栖テクノポリス圏内に属し九州陸上交通の要衝の地であることから、また、福岡都市圏の後背地としての地理的条件もあり、さらに国際的・国内的物流拠点としての整備が進む。

 b.佐賀市、多久市、佐賀郡、神埼郡、小城郡地域
多久工業団地・厳木工業団地・吉野ヶ里ニューテクノパーク・久保泉工業団地を後背地として、有明佐賀空港の母都市としての業務機能・都市機能を一段と集積することによって、臨空型産業の立地が進む。

 c.唐津市、東松浦郡地域
ウォーターフロントを生かした新たな水産・観光港としての整備計画と福岡経済圏と北松浦経済圏とを結ぶ結節点として中核都市としての機能を充実させる。
呼子・鎮西町などの東松浦周辺の観光拠点と連携した広域観光ルートを設定し、有明佐賀空港と結ぶアクセスが強化される。

 d.伊万里地域、西松浦郡地域
国際物流拠点としての整備が進められ、特に外貿のハブ港湾機能を志向し、将来伊万里湾開発の拠点となる。
鳥栖地域との物流の連携が進む。近い将来の西九州自動車道の開通によってこの地域の重要性はさらに大きくなる。
また、上松浦党・下松浦党の歴史、焼物の歴史・技術に重点を置いた広域観光ルートの開発が進む。

 e.武雄市、鹿島市、杵島郡、藤津郡
有明佐賀空港と結んだ広域観光ルートを設定し歴史と温泉を中心とした高齢化社会対応型の「癒しの地域」としての振興が図られる。
佐賀空港とのアクセスとして高規格道路や長崎新幹線の設置によって新たな展開を図ることが可能となる。

 f.長崎県地域
アジアに開かれた多様かつ自立的な広域交流圏が形成されるとともに、九州各地域の観光地を結んだ広域の国際観光ルートの形成が図られる。

 g.熊本県北部地域
有明海沿岸域の水産業、熊本県北部の農業地域の発展と大牟田・荒尾地域の鉱工業の発展、さらに玉名温泉・菊池温泉などの観光ルート開発が進む。

 h.久留米市、大川市、柳川市、八女市、大牟田市、周辺地域
大筑紫都市圏の中心都市として、また、有明佐賀空港のもう1つの母都市としての機能が充実し、他地域との機能分担が進む。特に、筑後川流域の各地域の特性を生かした産業の振興が図られる。筑後川下流域に進展している高付加価値型産業の振興を図り、各地域とのネットワーク化・IT化を図ることによって、ローテク&ハイテクの産業の融合が進む。

 i.福岡都市圏地域
福岡都市圏と佐賀県の連携を強化し、産学官が一体となった協力・推進体制を整備することによって、人と自然、海と田園と都市との共生や河川・海と林業・農業との適切な土地利用が図られる。

 

(3) 環境問題としての有明海
 近年、有明海の環境汚染については、諫早湾の干拓事業との関係もあって大きな問題となっている。しかし、有明海の栄養過剰による赤潮等の発生問題は、単純に諫早湾の干拓事業だけが原因ではないことは明白である。有明海を直接汚染する経済活動と共に、大小72の有明海に流入する河川がもたらす生活雑排水に含まれる栄養分や、化学的物質の直接的排水、し尿処理等からもたらされる過栄養等の要因等も、それが有明海の環境にもたらす影響力は大きいと考えられている。これらの問題は最近顕著になったといえども、本来は長期的な原因が蓄積することによって今日顕著に現れた問題であることを理解しなければならない。
 これらの長期的な原因を解決するためには、有明海周辺域とそれに流れこむ河川の流域に生活する人々の環境問題に対する理解とその対策のために生活の質の改善や各産業・企業の環境問題に対する努力・対策が必要不可欠である。大筑紫経済圏構想においては、このような環境問題を解決するための努力と施策が同時になされなければならないことは当然である。

 

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